西村健太さんの『苦役列車』を読んだときには文章が荒いと感じていました。しかし『暗渠の宿』を読み始めると文体から西村さんが語りかけてくるような錯覚にとらわれました。声が聞こえてくるような感じです。一言で言うと印象に残る存在感のある作家です。文章自体にオリジナリティーがあります。
暗渠の意味を調べてみましたが、地下に埋設したり、ふたをかけたりした水路のことです。下水道ということだと思います。流水面が見える水路を開渠または明渠とよぶのに対する語で構造の異なる排水暗渠です。題名の付け方一つとってみても才能を感じます。
人間は一つでも秀でたところがあれば光り輝くものだということを、作者は身を持って証明しています。希望を持てない若者への強烈なメッセージになったのではないかと思います。学歴を羨望視しながら学歴社会をひっくり返した作者のパワーは作品に封じ込まれ、今後ますます読まれるような気がします。