「歯科医学へのシュタイナー的アプローチの可能性」第六節 むし歯の1次予防

第六節 むし歯の1次予防

むし歯の1次予防は教育である。したがって歯科医師は優れた教師でなければならない。この点において歯科医師が教育学を学ぶ意義は大きいと私は思っている。歯ブラシ指導、食事の取り方、おやつの取り方など、同じものを同じ量食べても、その摂り方によって虫歯ができたり出来なかったりする。たとえばここに飴玉が10粒あるとしよう。おやつの時間を決めて10時に5粒、3時に5粒食べた場合と、30分に一粒ずつ食べた場合とでは量は同じだが、後者の方が、格段に虫歯が多くできる。なぜなら口の中が酸性に傾く時間が長くなるからだ。この部分だけを説明して、規則正しくおやつを食べればそれだけで虫歯を減らすことができる。

図1

図1は口の中のPHを示しているPH曲線である。口の中に食べ物が入るとPHは下がりPH5.5以下になると歯が溶けだす。これを脱灰(だっかい)と言う。しかし30分から40分で中性に戻り、歯に再びカルシウムが沈着する。これを再石灰化と言う。再石灰化の時間が多ければむし歯にはならないが脱灰時間が多くなると虫歯が発生する。つまり食べ物が口の中に入る回数が増えるとむし歯のリスクは上がってくる。規則正しい食生活が必要な理由がここにある。

5年ほど前、私はフィンランドの小学校を訪れたことがある。このとき私が見学をしたクラスは6年生のクラスで、虫歯予防について歯科衛生士が授業を行っていた。専門家が使うステファンカーブ(口の中に物が入ったときの口腔内のPH曲線)図1を使い子供たちにむし歯予防の説明していた。最初はちょっと難しいかなと私は思ったが、子供たちは十分理解していた。歯科衛生士の「酸に対する攻撃から歯を守るにはどうしたらいいか?」という質問に対し、生徒が「フッ素入り歯磨き粉を使う。」「キシリトールガムを使う。」などと答え、双方向の対話型の授業であった。その後歯ブラシをみんなでした。ここではきちんと磨けているかを見るのではなく、フッ素入りの歯磨き粉で歯を磨いたことについてほめあげるだけであった。最後は虫歯にならないキシリトールのガムをもらい。プロアイスホッケーのスーパースターの選手のカードをもらい終了した。これが日本であったのなら一方的に講義をして終わりだろう。歯を赤く染めだし、とれるまで磨かせる。三つの輪(カエスの輪)(図2)が出てきて甘いものを食べないようにして、歯を磨く、それだけでおしまいだろう。両方とも同じ時間を使うのならフィンランド型の虫歯予防教室の方が楽しいし、記憶にも残る。虫歯もこちらの方が減るだろうと思われる。近年フィンランドの小学生の学力が世界一になったという新聞記事を読んだが、これは教育方法によるものが大きいように思えてならない。またノキアのような世界最大の携帯電話メーカーも持っている。各家庭にはパソコンが用意され情報が行きかうIT国家だ。国中にセントラルヒーティングが設置され室内は24度の経済温度に保たれている。しかし人口は日本の二十分の一、わずか五百万人である。

図2

図2は皆様も小学生、中学生の時に見覚えがあると思う。たぶん飽きるほど見せられたはずである。歯科医師もいつも同じ説明をしたと思う。甘いものを食べるな、歯を磨こうである。しかし実はこれだけではむし歯は止まらない。砂糖の摂取制限と食後の歯ブラシでは虫歯の予防は不十分なのである。少なくともフッ素について教育しどのように使用するかについて話しておく必要がある。これでは教育としては不十分だと私は思う。同じ時間を使いながら、フィンランドと日本では、この教育の違いだけでもむし歯ができる本数は違うと思われる。ドクターはラテン語で教師を意味すると、どこかの本で読んだことがあるが、医療者は常に良い教師でなければならない。

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