シュタイナーと歯科医療総論 第二節 EBM(エビデンスベースドメディスン)とNBM(ナラティブベースドメディスン)

シュタイナーと歯科医療総論

第二節 EBM(エビデンスベースドメディスン)とNBM(ナラティブベースドメディスン)

虫歯は虫歯だけで存在するのではなく、それらは当然のことながら人体に付随している。それぞれの虫歯の成因にはナラティブ(物語) がある。EBMも大切だが歯科医療においてはNBMがさらに重要だと私は考えている。

<かつて、リオタールは、ポストモダンとは、「大きな物語の終焉」した時代であると述べた。もはや、万人に通用するような大きな物語は消失し、一人ひとりが、自分の殻にあった「小さな物語」を紡いで生きていく時代になったのだと。リオタールによれば、現代人は、それぞれが己の人生の物語を紡いでいかなければならない時代に入ったということである。(今井重孝他、2008、129頁)>注1 歯科疾患には各個人の背景があり、むし歯という現象だけを見てはならない。問診を十分に行い、個人のナラティブをよく診ていかないと、むし歯の穴は埋まったが、問題の本質が改善されていないために再発を繰り返すケースは多い。

私はEBMを信望する歯科医師にこのような質問をしたことがある。たとえば虫歯予防にフッ素を使う時、どのように患児の母親にEBMを用いて説明しますか?の問いに彼はこう答えた。「この濃度のフッ素を○カ月に一度使うと、今まで年間3本できていた虫歯が1.6本になります。」と説明すると答えていた。私は思うのだが、患児の母親が聞きたかったのは、どうしたら自分の子供が虫歯にならないか?健康でいられるのか?ということなのではないだろうか?またむし歯は全員が平均的にあるのではなく3割のハイリスク患者がむし歯の7割を持っていて平均値を押し上げている。統計上にはばらつきがあるのだ。したがって唾液検査を含む歯科的な臨床検査とともに、十分な問診による個人のリスク検査とナラティブが必要となる。問診に十分時間をかけなければならない理由がここにある。

<六世紀ビザンチンのギリシャ人医師であったシュテファヌスは、このジレンマを漫然とではあるが察知し、「医療は将来、根本的な矛盾に悩むであろう」と予言した。その矛盾とはつまり、医学理論では一般的なこと、万人に共通することしか問題にしていないのに、それを実践する時には多様な個人を相手にするということである。人間にはひとりとして同じ人はなく、そこに一般的な理論をあてはめようとするところから無理が生じるのだ。(R・カールソン、1991、158頁)>注2 歯科医学全般においてこのようなことが言える。同じ薬剤を投与しても効く人もいれば効かない人もいる。同じ大きさのむし歯で同じように治療してもむし歯がすぐに再発する人もいれば、長い間維持できる人もいる。こういった考え方さえ持ち合わせない歯科医師も多い。

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